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「…困った…これ、外に出られない…」
アキが身を潜めながら見詰める先には、見た事も無い花に囲まれたドラゴンがいた。ドラゴンは確かに実在していた。
「…取り敢えず、店の中に戻ろう…」
建物の中を調べた結果、アキが今いるここは小さな商店だという事が分かった。運の良い事に、食糧や水、日用品がある程度揃っている。
どうやら、住人は既にいないらしく、あんな常軌を逸した生物が近くにいる事を思えば、戻って来る事は無いだろうとアキは考えていた。
そこでふと、男の空ろな目がアキの頭を過ぎった。コンクリートにこびりついたジャムの様な物体も、続けて浮かび上がって来る。
アキは、知らず知らずの内に体が震えていた事に気が付いた。堪らずその場にしゃがみ込む。
「…怖い…」
ここに来て初めて、アキは生き延びている事に対する後悔と、どうしようもない恐怖とが入り混じった心中を吐露していた。
「…ああ…いっそ、あのT字路で転んでなければ…」
「楽になれたのにって?クスクスクス…」
どこからともなく、そんな声が繋げ損ねた言葉を引き継いだ。アキは人がいた事に驚き、独り言を聞かれてしまった事に顔を耳まで真っ赤にした。
「きっ…聞いてたのかっ?!」
「クスクス!顔真っ赤っかで、可愛いな~…クスクスクス」
声の主はアキの斜め後ろ、アキよりも随分とリラックスした座り方で、面白いものでも見る様な好奇の目でアキを見ていた。
その人物に、アキは覚えがあった。
「…って君、もしかして、行き止まりにいた。えっと…さっさと帰って糞して死ねよ、の女の子?」
「クス!何でそこを覚えてるんだよ!クスクス、クスクスクス!」
さっさと帰って糞して死ねよの女の子は、アキがその台詞を印象深く記憶していた事に耐えられなくなり、腹を抱えて笑い出した。
終いには、引き締まった綺麗な脚をぱたぱたと振り乱し始める。
アキはそこまで笑われるとは思っていなかったらしく、自分の発言に今更恥ずかしくなり、顔を真っ赤にしたまま俯いた。
「も、もういいだろ。そんなに笑うなよ」
「クスクス…!何?照れてんの?本当に可愛いな、お前。クスクスクス」
しばらくの間、アキは延々と可愛い可愛いと女の子にからかわれていた。
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