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「…もう、分かったよ。俺男なんだけど、可愛いで良いよ、もう…」
さっさと帰って糞して死ねよの女の子、略してサカクシジョは、何となく響きが帰国子女に似ていた。だから何という訳ではないが。
「クスクス…やっぱり、覇気の無い男って可愛いな~。それに引き換え、一々突っ掛かって来る男はクソ犬ばっか…」
覇気が無いと言われ、少し男としての自信とプライドを失うアキ。しかし、そのお陰で彼女と話が出来ていると思うと、アキは心の中で感謝の二文字を書き綴るのだった。
簡単に言うと心細かったというだけの話だが、アキの名誉を守る為にそれは明確にしないでおく。
「…そ、そう言えば、さっきから気になってたんだけど…何で君、返り血浴びてるんだ?」
突然声のトーンが下がったサカクシジョ、略してサクジョに言い知れない恐怖を感じたアキは、強引に話の流れを変えようとする。
そして、アキとサクジョは今更になって自分達の格好に気が付いた。何故もっと早くに気が付かなかったのか。
「って、俺もだよ!」
「って、お前もだよ!」
息ぴったりのジャストタイミングで、二人は同じ様な言葉を漏らす。標的はアキだったが。
「……ぷ、あはははは!」
「……クス、クスクスクス!」
何だかそれさえも面白くなって来たのか、二人は顔を見合わせて笑い合う。
端から見たら、衣服にべったりと返り血を浴びた男女が笑い合っているという危ない光景なのだが、勿論二人はそんな事には気付かないでいた。
「俺の名前は、アキって言うんだ。君は?」
「クスクス。アタシはきょう…うん、キョウでいいよ」
ひとしきり笑い合った後、二人は互いに自己紹介という程でもない自己紹介をした。
「…と、取り敢えず、着替えでも探そうか」
今更女の子と見詰め合っている事に気が付き、恥ずかしくなって店の奥に入って行こうとすると、アキは何か柔らかいものに引っ張られて足を止めていた。
それは、キョウの手だった。キョウの手が、アキの腕をがっちりと掴んでいた。がっちり、だった。少し女の子に夢を見ていたアキは、その幻想をブチ殺される。
「ちょっと待った。それならイイ場所知ってるよ。おいで、アキ。クスクスクス」
微かな笑みを浮かべながら、キョウはアキの腕をがっちりと掴んで、店の外へとぐいぐい引っ張って行く。
そうして連れ出されて行くアキの表情には、不安感や心細さは微塵も無くなっていた。
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