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「…何…?」
鈴の音と聞き間違える可能性を秘めた清らかな声には、少女の驚きと戸惑いが如実に現れていた。
少女が自室のドアを開けた時、本来であれば自宅の二階の廊下に繋がっている筈で、実際に自宅の二階の廊下に繋がっていた。つまり、ここまでは何の問題も無かった。
では、何故この麗しの少女はフランス人形の如く静止しているのか。その答えは、少女に見詰められている羨ま妬ましい景色にあった。
廊下の先には、家の造りと釣り合わない何とも見晴らしの良い柵無しのバルコニーがあり、少女の水晶の様に澄んだ瞳はそれに向いていた。
勿論だが、少女の家には元々バルコニーは存在しない。それどころか、ベランダも存在しない。では、何故バルコニーがあるのか。
屋根から二階から一階から地面まで、ぱかっと展開出来るシルなんとかハウスの様に、綺麗に壁が無くなっていたからだ。そう、精巧な作り物の人形と見間違ってしまう美貌を兼ね備えた少女に相応しい家であると言えるごめん。
「…一体、いつから…私の、家は…兎の、家に…なったの…?」
どうやら少女は、長らく人と会話していなかったらしく、声の出し方がぎこちなかった。大丈夫、その内直る。
「…あまり、気にしない、けど…」
そう言うと、少女はホログラムの様なキーボードを目の前に出現させ、カタカタと細くて綺麗な指で何かを打ち込みながら歩いて行く。
そして、打ち終えたと同時にバルコニーから飛び降りる。良い子は真似しないでね。
しかし、かなりの高さから飛び降りたにも関わらず、少女は何事も無くふわりと着地して再び歩き出す。人は見掛けに依らないとは、正にこの事だった。
「……!」
少し歩いた所で、何かに気が付いた少女の触れただけで壊れてしまいそうな細くて長い脚が止まった。
「…あれは、ドラゴン…?」
見た事も無い花に囲まれたドラゴンが、ビルを壊しながら徘徊していた。少女は、揺らすだけでキラキラと輝きそうなツインテールを翻し、ドラゴンから離れる方向に歩き出した。
「…最近、外に…出て、無かった、から…外は、随分…ファンタス、ティックに…なったの、ね………疲れ、てるの、かな…」
少女は決して振り返らずに、小さく呟いた。その後ろ姿は、気品溢れる優雅さと消えてしまいそうな儚さを併せ持っていたが、ドラゴンを目撃する前よりも疲れて見えた。
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