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「…あ……靴…」
電力の供給に異常が発生したから外出したにも関わらず、少女はドラゴンを目撃した衝撃で、外出した目的はおろか靴を履く事すら失念していた。
と言っても、壁や玄関が消失していたので、どちらにせよ靴は履けなかったのだが。
少女は、憂いを帯びた瞳で周囲を見渡して何かを探し始める。すると、その不安に満ちた瞳にあるものが映った。
「…ウニクロ、見付けた…」
ウニクロ。断じてユなんとかクロではない。そこは、ある程度シャレオツな衣類を低価格で提供している全国チェーン店だったと思う。少女はそこに進路を定めた様だった。
「……仕方、ない…いでよ、憂鬱、の、姫君…!…ダーク、ウサ、ちゃん…!」
少女は徐に、服のどこかに付いているであろうポケット的収納スペースから、陰鬱な表情を浮かべた口元が×の兎の人形を取り出した。
その人形とは、ダークウサちゃん(♀)。後頭部と背中にそれぞれジッパーが付いており、前者には少女のお小遣いが、後者には少女の秘密が入っている。耳と足が長いので、持ち運びもスムーズ。
「…ダーク、ウサ、ちゃんが、いれば…百人、力…!」
ダークウサちゃんの耳を左手で持って右手で小さくガッツポーズを取った少女は、荒れ果てた大地に咲く一輪の花を愛でる女神すら見惚れさせる様な笑顔を見せた。オーディエンスが沸いたソーリー。
…ところで、ダークウサちゃんの足を、縦縞ニーハイソックスを穿いた少女の足が踏んづけている様な幻が見えるが、きっと妄想か気の所為のどちらかだろう。
それからしばらくしても、特に問題という問題は発生しなかった。取り立てて言う必要がある事と言えば、破壊活動に精を出していたドラゴンの方から悲鳴が聞こえた事くらいだろうか。
それらの事から少女は、ここら一帯がゴーストタウン化しているのではという結論に至っていた。ダークウサちゃんも、恐る恐る歩く少女の腕の中で揺られながら、うんうんと頷いて同意していた。
「……!…」
突然、何かに気が付いた少女は静かに歩みを止めて、その場で姿勢を低くした。ダークウサちゃんが少女の胸に抱え込まれる。羨ましい。
「……ドラゴン…幻、じゃ…無かった…?」
ドラゴン。その幻想的な存在は、少女には気付かずに遥か上空を悠々と飛行していた。
少女の瞳に、不安感が見え隠れする。けれど少女は、勇気を振り絞る様にダークウサちゃんを両腕でぎゅっと抱き締め、再び歩き始めた。
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