2 ソロ

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「…どう、かな…?…これ、似合う…?」 すっかり擦り切れてしまった縦縞ニーハイソックスを新しいものに替え、紫の靴を履いて、少女は鏡の前に立っていた。 その少女の姿を店員の代わりに見ているのは、ご存じダークウサちゃん。ダークウサちゃんの目利きは相当なもので、少女が身に纏っている衣服は全てダークウサちゃんのお眼鏡に適った代物である。勿論冗談である。 少女が着用しているものは全て少女自身が見繕ったものであり、普段はゴシックロリータ風な服装を好んで着ているが、全く系統の違う格好をしている事もある。さすが美少女は格が違った。 いやはや、お見せ出来ないのが残念だ。ほら、挿絵が無いからね。いやでも、本当に残念だな~(チラッチラッ)。 「…うん、ありが、とう…じゃあ、これに、するね…」 丁度良く気に入る靴を見付けられて、少女は満足そうに歩いてみたり回ってみたりする。太陽の様に燦々と輝く少女の笑顔。さながら、ボクらの太陽。 上機嫌でダークウサちゃんを抱え上げると、少女はソックスと靴の値段を確認してからレジに向かう。かつかつという靴の小気味良い音が、静寂な空間に響き渡る。 不気味な静寂。周囲には本当に誰もいない。静けさで気が散ってしまう程の、異常な静けさ。ここに来て、ようやく少女は静けさに違和感を持った。 建物の外にいた時から、その音は確かに存在していた筈なのに、今の今まで少女に知覚される事は無かった。それが何故かは、少女には分からなかったが。 少女は、人が一人通れるくらいに開けた自動ドアが、僅かに振動していた事に気が付いた。その振動は徐々に大きくなり、それに連れて小さい何かの音が聞き取れる様になって来た。 そして、自動ドアの向こうに巨大な影の群れが集まって来るのを、少女は見た。それが恐らく、ドラゴンの群れだという考えに至るまでに、大した時間は掛からなかった。 「…う、そ…?…どう、しよう…?…逃げ、ないと!」 少女は、店内を見渡して自動ドア以外の出入口を探そうとするが、そんなものは見当たらなかった。少女が開けて入って来た自動ドア以外には。 「…い、や…誰か、助けて…!…誰か…!」 少女の懇願は、誰の耳にも届かない。可哀想な、揺るがしようも無い事実。何故なら、その声は音によって消されてしまうからだ。 箱から出られなくなった人形は、その場に座り込み、腕の中にある人形をただ抱き締める事しか出来なかった。
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