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「クスクス…随分素直に付いて来るんだ。アキは、アレ?頼み事をされたら断れないタイプ?クスクスクス」
ぐいぐい、ぐいぐい、ぐいぐいぐい。アキは、自分の押しの弱さと引き際の良さに、情け無さを感じずにはいられなかった。更に、出会って数分程度の女の子にそれを見抜かれた。アキとしては、少しショックだった。
「…あれ、黙っちゃうんだ?図星?むしろ、当たり過ぎて言葉も無いって感じ?クスクスクス」
ぐいぐい、ぐいぐい、ぐいぐいぐい。アキは、自分の腕をがっちりと掴んで引っ張って行く目の前の少女は、きっと超能力者なんだと思った。百発百中。職業は占い師に違いない。
「な、なあ、キョウ…」
少女の名前を呼ぶ。つい控え目に呼び掛けてしまう自分に、アキは自己嫌悪の感情を覚えた。緊張しているのか遠慮しているのか、アキはキョウの返事を待つ。
「!…な、何?もしかして、怒った…?」
アキの沈黙を怒っていると勘違いしたのか、キョウの視線がちらちらとアキに向けられる。キョウの事を遠慮や容赦が無い系の女の子だと思っていたアキは、キョウに対する認識を改める事にした。
「い、いや、怒った訳じゃないんだ!ただ、その…な、名前を呼ぶのが、恥ずかしく、て…」
超素直。アキは、自分の事を自分でそう思った。そして、恥ずかしいなんて言葉を口に出して言う方が恥ずかしいという事に気が付いたのは、その直ぐ後だった。
「…あ~、もう…アキって、何でそんなに可愛い事言うかな~?…ちょっとキュンって来ちゃったじゃんか…」
逆に、キョウの方が恥ずかしそうにアキから視線を逸らした。それでも、キョウはがっちりと掴んだアキの腕を離そうとはしなかった。
「…や、やっぱ今の無し!アキもアタシも、何恥ずかしい事ばっか言ってるんだろ!!」
ぐいぐい、ぐいぐい、ぐいぐいぐい。照れ隠しなのか、キョウはアキの腕を再び引っ張り始めた。止まっていた足も動き始める。
「…」
「…」
しかし、無言。キョウに恥ずかしいと思われていた事が分かって、アキは自分の素直な発言を後悔していた。また、キョウも勢いでとんでもない事を口走ってしまったと、後悔していた。
そんな二人に会話の機会を与えるかの様に、天からの贈り物が降って来た。さあ遠慮はいらない受け取り給え、という押し付けがましい感じで。
「!!!」
…二人から離れた場所にある店舗の上空に、ドラゴンの群れが集まって来ていた。
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