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「……キョウ…」
アキは、キョウの凛々しい姿を目に焼き付けようと、キョウが跳んだり跳ねたりする度にそれを目で追うつもりでいた。
しかし、キョウがドラゴンの群れに向かって走り出した瞬間、アキの後頭部に強い衝撃が走った。そのまま身動きも出来ずに倒れる。アキの頭に疑問符が浮かんだ。
「…?…な…に…」
「…全隊に告ぐ。生存者確認。一名確保。残り二名。標的確認。警戒しつつ包囲。突入班は迂回。以下、手筈通り。オーバー」
どうやら誰かに殴られたらしい事が分かったアキは、自分を殴ったであろう誰かの方を振り返ろうとした。だが、その誰かは案外近くにいたらしく、足元しか見えなかった。
その誰かは意味の分からない事を言っていた気がするが、その言葉をアキが理解しようとする前に今度は電流が走った。視界が白で埋め尽くされ、アキの意識はそこで途絶えた。
「…もう気を失った?…聞いていた情報と違う…この子は研究者共の言う、Sではないのか…?」
アキにスタンガンを浴びせた何者かは、アキを不思議そうに見下ろすと腰の無線機に手を掛けた。
それと同時に、店舗から銃撃音と爆発音が聞こえた。どうにも、ドラゴン相手に銃はあまり相性が良くないらしく、遠目から見ても牽制程度の役割を務めるのが限界の様だった。
「…こちら突入班。生存者確認。一名確保。残り一名。撤退し、以下手筈通りに。オーバー」
「了解。成功を祈る。オーバー」
この何者かは、指揮官の役割を担っているらしい。周囲を警戒しつつ、アキを担ぎ上げる。
「…やはり、ドラゴン相手には分が悪いか…」
戦況から不利を判断し、諦める様に無線機を手に取る。恐らく、一体でも多くドラゴンを倒すつもりでいたのだろう。
「…全員に告ぐ。生存者を確保し、順次撤退。以下、手筈通り。成功を祈る。オーバー」
通信が終わると、何者かはドラゴンから離れる様に移動を開始する。その連携と手際の良さから、特殊な訓練を受けている事が分かった。
「…悪く思うなよ…お前達は偶然、運悪く、連中に目をつけられただけだ…それ以上でも、それ以下でもない」
呟く様に吐き出された言葉は、誰の耳に届く事も無く掻き消された。
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