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――それは前触れも無く、突然の出来事で。
――それは現実味が無く、獰猛な鳴き声と共に。
――それは限り無く、空を悍ましい色で埋め尽くし。
――それは為す術も無く、世界を焼き払った。
「………っ…」
まるで、社交辞令的に栄誉を称える拍手の様だ、と思った。
きっと、無味乾燥を端的に表現した音というものは、こういった音を響かせるのだろう。と、別に本気で考えた訳でもない無学な言葉を並べ、並べておきながら、呆れる。
「………ここ…どこ、だろ…?」
疲労した体を満たす重量感に、徹夜明けの朝を連想する。
徹夜明けは、どうしてあんなに朝日が眩しいのか。などと、頭の中にぽっかりと空洞が出来てしまったかの様な心境の中、生暖かく硬い床の感触に疑問符を浮かべた。
取り敢えず、体と同様に無用の鈍重さを発揮する瞼を、嫌々ながら開く事にする。
「……ん…?」
外。屋外。コンクリートベッド。タオルケットどころか枕すら無い。これが世に聞くエコノミーというやつか…と、納得する訳も無く、少しよく考えてみる。
すると、最近流行の世界滅亡系ハリウッド級大作映画のワンシーンと、状況がよく似ている事が分かる。
まるで映画の世界に飛び込んでしまったかの様な感覚に、今見ている景色は夢か現か、それともただの鬱なのか。判断に困りかけたその時、ようやく根本的な疑問に行き当たった。
「……何で、こんな所で寝ていたんだ…?」
素朴な疑問。
しかし、それは。
頭の中にぽっかりと空いてしまった洞を埋めるのに十分な、切っ掛けとも呼べるものだった。
「…!!!!」
焦げる臭い。酷い臭い。その強烈さに引き付けられ、振り返る。
そして、理解した。疑問は全て解けた。どうしてこんな所で寝ていたのか。これは夢なのか現実なのか。それらの答えは、目の前に広がっていた。
倒壊する建物。瓦礫の波。飲み込まれる悲鳴。燃え盛る炎。もがき叫ぶ炭。這いずる蜥蜴。赤い染み。笑う鶏。止まないサイレン。
ゆらゆらと、空が歪んでいた。混沌とした熱気に煽られる様に。混沌とした世界を嘲笑う様に。
きっと、これは夢なのだろう。夢だから、あんなものを見てしまうのだ。という、まるで言い訳の様な前口上を頭の中で述べると、空の向こうに飛んで行く影の名前を呼んだ。
「…ドラゴン…」
しかし、きっと。
それは夢では無いのだろう。
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