3 S-

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「…ここは…どこだ…?」 アキが目を覚ますと白い天井と白い壁が見えた為、こういう時は大抵病院にいるのが定番だと思った。しかし、それは勘違いだった。 「…分かった、病院だ。実は今までのは全部入院中の俺の夢で、現実にドラゴンなんて存在していないんだ。なんて…」 酷く空虚な言葉だと、アキは自嘲気味に思った。そんな都合の良い夢がある訳が無いし、あんな現実感に溢れた夢を長々と見る訳も無い。それに、とアキは続ける。 「…あんな頭がおかしくなりそうな恐怖心、絶望感…どんな映画でも味わえない…あれは、現実以外に考えられない…」 第三者の視点ではなく、作り物ではなく、空想でも妄想でもなく、実際に目の前で本物が現実に起こる。アキは、最大の恐怖と絶望の発生条件をその様に捉えていた。 だからこそ、アキはドラゴンに人がいとも容易く殺されていく様に恐怖し、いずれドラゴンに他の人と同じ様に殺される現実に絶望した。それは、今まで味わった恐怖よりも恐ろしく、今まで味わった絶望よりも耐え難かった。 「…なら、ここはどこだろう…」 アキは改めて自分の周囲を見渡す。白いベッド、白いタンス、白い壁、白い天井に白いライト、そして白いティッシュ。間違えた。白いディッシュ。窓も無ければドアも無い、密室に見える空間。少なくとも、病院では無さそうだった。 「…そうだ。キョウは、ドラゴンの群れは、一体どうなったんだ?」 アキは、気を失う前の記憶を何とか思い出そうとする。キョウに恥ずかしい事を言って、キョウに可愛いと言われて、キョウに笑われた。ここまで思い出して、アキは自分の情け無さを再確認してしまう。 それはひとまず置いておいて、アキは先に記憶を探る事を最優先事項にした。自虐よりもやるべき事があると、頭を切り替えて集中に入る。 「…あ、誰かに頭殴られた」 傍から見ると馬鹿か電波みたいな発言だが、アキはこれでも真剣だった。真顔だと、余計に馬鹿さ加減や電波さ加減に磨きが掛かる。 「…あ、スタンガン食らった」 見えないものを見ようとして、現実を見失った人の様だった。むしろ、透視とか千里眼とかを本当に持っていて、アキには何かが見えている様に見えなくも無い。 「…駄目だ。ここから先がどうしても思い出せな…い…?」 諦めかけたその時、アキの意識が朦朧として強い睡魔に襲われた。驚く間も無く、アキはそのまま眠りについてしまった。
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