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「ははっ…ドラゴン、だって?キミは何を言っているんだい?」
恰幅の良い男は、目の前の青年を哀れんだ目で見た。その様子からは、驚きを通り越して呆れている様にすら見て取れる。
どうやら、他の誰もが男の言葉に同意しているらしく、青年の言葉に耳を傾ける気は無い様だった。
「おいガキ!口から出任せで適当な事言って、本当はビビって外に出られないだけなんだろ?ギャハハハ!」
「俺達はお前と違って正常なんでな。避難勧告だか何だか知らねえが、坊やは帰ってママに慰めて貰いな!」
青年は、小さく奥歯を噛み締めると、男達を睨み付け、怒りを堪えていた。
すると、少し離れた所で、それら一部始終を見ていた少女が何かを呟くのを、男は見逃さなかった。
「おい女!今、何て言った!?」
「クスクス…いや、別に?子犬程よく吠え掛かる犬はいないな~って、思っただけ。クスクスクス…」
少女の物言いが癪に障ったのか、男は少女に詰め寄り、胸倉を締め上げる。
「クスクス…能書きの次はセクハラかよ、オッサン。いちいち噛み付いて来るなよ、クソ犬。さっさと帰って糞して死ねよ」
「こ、このアマァっ…!!二度と生意気な口利けない様に、体に教え込んでやる!!」
咄嗟に、青年が二人の間に割り込もうとした瞬間、この世のものとは思えない悲鳴が聞こえて来た。
次いで、恐竜の叫び声の様な咆哮が聞こえて来る。男の顔色が変わった。
「な、何だ今の声は!?」
それを見て、少女が不敵な笑みを浮かべ、静かに言った。
「クスクス…ドラゴン、かもね?…クスクスクス」
少女の言葉は、その場に動揺を与えるに足るものだった。しかし、その動揺を破らんと、恰幅の良い男が勇ましく名乗りを上げた。
「きっと、頭のおかしい人が喚いているんだろう…!いや、そうに違いない!私が直々に行って、黙らせてこよう!なあに、時間は掛からんさ。行って、戻って来るだけだ!」
その場にいた全員の視線を真っ向から受け止め、恰幅の良い男はブツブツと何事かを呟きながら、声のした方へと歩いて行く。
青年が何か言いたげな顔をするが、諦めた様に押し黙り、俯く。
「…死亡フラグ、頂きましたって感じ?クスクスクス…」
そして、少女の言葉と示し合わせた様に、二つ目の悲鳴が上がった。
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