1 災厄の訪れ

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カタカタカタカタと、キーボードを叩く音だけが部屋に響く。 その部屋を装飾するのは、所狭しと並べられたぬいぐるみと、二人は入れそうなベッドだけで、他には何も無い。 クローゼットなどを開ければそうでもないのだろうが、それ程までに偏った雰囲気だった。 「…………あ」 少女の小さな声は見た目に似つかわしい、幼く儚い印象を与えるもので、それは唯の一言であっても揺らぐ事は無かった。 そう、この少女こそが少女の中の少女。少女と言えばこの人。言わば、少女の代名詞的な存在であり、それを信じて疑わない事が世の摂理であるかの様な、そんな事さえ考えさせて止まないごめん考え直す。 少女の長い睫毛で飾られた、小さな水晶の様な目の先には、真っ黒になった画面が広がっていた。少女に疑問符が浮かぶ。 「……?」 特徴的な二つのおさげを揺らしながら傾げた首を元に戻すと、気怠そうに電源のボタンへと細く綺麗な指を伸ばした。 しかし、真っ黒な画面には少しの変化も生じない。更に少女に疑問符が浮かぶ。 「…??」 少女が使用しているこのパソコンは、10年以上昔の物である為、寿命が来ていても何等不思議では無い。 「…仕方、ない」 聴く者の心を一瞬で奪ってしまいそうな、可憐で透明な声で呟くと、少女はピアノを弾く様な気品溢れる仕草で、ホログラムに見えるキーボードを叩き始めた。 すると、中空に現われたホログラムの画面に、幾つかの言葉が表示された。少女は、それを反芻する様に呟く。 「…電力の、供給に…異常、発生…?」 それを頭で理解し、少女は思った。このパソコンが壊れた訳では無かったのだ、と。 次第に、少女の若々しく瑞々しい顔に、本来の柔らかさが戻って来る。その様は、まるで地上に舞い降りた天使と見紛う程と表現しても過言では無かったもう少し自重する。 「でも……何で、電力が…?」 少女に再び疑問符が浮かぶ。 「…久し振り、に…散歩、しよう、かな…?」
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