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「おいガキ!お前が先に行けよ!ドラゴンとやらがいるんだろ?目の前で食われたら信じてやるよ!」
乱暴な男に背中を押された青年…アキは、出来たばかりの血塗れT字路を見詰め、唾を飲んだ。
向かって左側の壁に、つまり一本道と右に曲がる分れ道が交差している地点の壁に、ずるずると粘り気のある物体が壁伝いに落ちていくのが分かる。
そして、その下には、丁度イチゴジャムに入っているイチゴの様な、原形を辛うじて留めている何かがコンクリートに張り付いていた。
気持ち悪い。アキは生まれて初めて、人間をそう形容した。
別の道があれば、そっちの方を通りたいと思う程だった。勿論、この道を通りたくない理由はこれだけではないのだが。
しかし、別の道は無い。となれば、少し広い程度の行き止まりのコンクリート壁から移動したければ、結局この道を行くしかなかった。
「おいガキ!へへっ、ビビってんのか?おい!ドラゴンとやらが怖くて震えて動けねえってのか!!」
…退路はこの男に塞がれてしまった。アキは、この理不尽な状況と覚悟を固められない自分を呪いながら、不様な死を覚悟する。
「…きっと、痛いのは、一瞬だ…」
所謂、自暴自棄と言われるものだった。しかし、これ程までにこの状況に合致する言葉は無かった。
「…うおああああぁぁっっっ!!!!」
走る。もしかしたらという希望を込めて、全力で走り抜ける。やはり、覚悟なんてものは固まっていない様だった。
向かって右側の壁が無くなった瞬間、アキは固く目を瞑った。コンクリートにこびりついているジャムと同じ末路を辿る。それを目の当りにする度胸はなかった。
「っ??!」
その時、アキの体が急激に下に引っ張られた。目を瞑った直後の出来事で、アキは何が起こったのか分からずにコンクリートにへばりつく。
「ギャハハハハッ!!すっ転んでやがるっ!そんなに怖かったのかよ!!」
「…え?…じゃあ…ドラゴンは、いなかったのか…?」
アキは、自分が生きている事が信じられず、自分の体と自分の周囲を見渡した。
血塗れだった。アキは心臓が止まりそうになる気分を味わうが、すぐにそれが自分の血でない事に気が付く。
「…滑って、転んだだけか…焦って損した」
「ギャハハハハッ!今更気付いたのかよっ!…にしても、中々度胸あるじゃねえかガキ!」
どうやら、アキの覚悟とも言えないなけなしの度胸は、この乱暴な男に気に入られたらしかった。
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