2 ソロ

2/12
前へ
/45ページ
次へ
「おいガキ!お前が先に行けよ!ドラゴンとやらがいるんだろ?目の前で食われたら信じてやるよ!」 乱暴な男に背中を押された青年…アキは、出来たばかりの血塗れT字路を見詰め、唾を飲んだ。 向かって左側の壁に、つまり一本道と右に曲がる分れ道が交差している地点の壁に、ずるずると粘り気のある物体が壁伝いに落ちていくのが分かる。 そして、その下には、丁度イチゴジャムに入っているイチゴの様な、原形を辛うじて留めている何かがコンクリートに張り付いていた。 気持ち悪い。アキは生まれて初めて、人間をそう形容した。 別の道があれば、そっちの方を通りたいと思う程だった。勿論、この道を通りたくない理由はこれだけではないのだが。 しかし、別の道は無い。となれば、少し広い程度の行き止まりのコンクリート壁から移動したければ、結局この道を行くしかなかった。 「おいガキ!へへっ、ビビってんのか?おい!ドラゴンとやらが怖くて震えて動けねえってのか!!」 …退路はこの男に塞がれてしまった。アキは、この理不尽な状況と覚悟を固められない自分を呪いながら、不様な死を覚悟する。 「…きっと、痛いのは、一瞬だ…」 所謂、自暴自棄と言われるものだった。しかし、これ程までにこの状況に合致する言葉は無かった。 「…うおああああぁぁっっっ!!!!」 走る。もしかしたらという希望を込めて、全力で走り抜ける。やはり、覚悟なんてものは固まっていない様だった。 向かって右側の壁が無くなった瞬間、アキは固く目を瞑った。コンクリートにこびりついているジャムと同じ末路を辿る。それを目の当りにする度胸はなかった。 「っ??!」 その時、アキの体が急激に下に引っ張られた。目を瞑った直後の出来事で、アキは何が起こったのか分からずにコンクリートにへばりつく。 「ギャハハハハッ!!すっ転んでやがるっ!そんなに怖かったのかよ!!」 「…え?…じゃあ…ドラゴンは、いなかったのか…?」 アキは、自分が生きている事が信じられず、自分の体と自分の周囲を見渡した。 血塗れだった。アキは心臓が止まりそうになる気分を味わうが、すぐにそれが自分の血でない事に気が付く。 「…滑って、転んだだけか…焦って損した」 「ギャハハハハッ!今更気付いたのかよっ!…にしても、中々度胸あるじゃねえかガキ!」 どうやら、アキの覚悟とも言えないなけなしの度胸は、この乱暴な男に気に入られたらしかった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加