after snow

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「…一応ここ入るの禁止だよ」 千葉さんの手がほどけた。ここが目的地らしい。 「大丈夫。どうせ誰もこない」 こないって言っても、それに。 「屋上は寒いでしょ」 六階の屋上のドアの前に僕たちはいる。 「…ならマフラー貸す」 いつの間にか持っていた白いマフラーを僕に渡す。 「じゃあ千葉さんはどうするの?」 「………」 黙る千葉さん。まさか、考えてなかったの? 「気合いって大事」 「千葉さん案外男らしいね」 ドアを開けて外に出る。 肌を突き刺すような冷気が僕たちに吹く。冷え性の手がしびれるように痛む。 「高橋」 千葉さんがこっちを見る。 こんなときでも表情は変わらない。 「高橋は、本当に笑えるの?」 どうやら、用というのはこれらしい。 「…聞いてる?」 予想よりずっと斜め上の質問に僕はちょっと驚く。 「…いや。 僕は精一杯笑ってみたんだけど、三船君に逆に笑われちゃって、うまく笑えてない」 「…そう」 屋上の塀の前の段差に腰掛ける僕ら。 「それが、一体どうしたの?」 「別に。 ただ、高橋が笑ったって聞いたから」 手に息を吹きかけ、こすって温まろうとする千葉さん。 「(そういえば、彼女も笑えないんだよな、うまく)」 だから彼女は『雪の王女』みたいなこと言われて、それで僕らは『氷コンビ』なんだから。
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