訪雪

　僕は今、壮大な夜景と対峙している。
　寒々しいのは当たり前。今日一月二日は冬真っ只中なわけでそんな中、僕はわざわざ野外活動に洒落込んでいた。言わずと知れた、初詣に来ているのである。
　僕が毎年初詣で来る神社は、五日位まで人でごった返すことで結構有名な神社なんだけど、僕は本堂のあるそっちには行かず、「奥の院｣と言われる、本堂から少し登ったところにある神社に初詣に行く。小高い山の上にその神社はあるんだけど、僕は連れもいない身軽な参拝客なので、車で渋滞している坂道を一人バイクですいすいっと登った。本堂近くに差し掛かると、屋台や徒歩で来た客で道は溢れかえる。交通整理が追いついてないのが見て取れる。そこを通り過ぎると、さっきまでの喧騒が嘘のように、人も明かりもおいしそうな匂いも、全てが何もない、暗い山道が頂上に向かって続いている。僕はそこを登り、展望台に行く途中にある山中に入る入口でバイクを止め、岩だらけの急斜面を下りながら山に入る。真っ暗な山中を携帯の明かりをよすがに下りきり、備え付けの蝋燭と線香とチャッカマンでちゃっちゃとお参りして、五円玉を放り込んでその場をあとにした。
　と言うのも、今日のメインイベントは初詣じゃないからだ。
　拝借した蝋燭の明かりをよすがに登りきり、バイクでその上の展望台へと向かった。展望台の駐車場にバイクを止め、備え付けのちょっとしたレストランの裏手の斜面を登ると頂上に出る。
　なかなかこの頂上にまで来る人はいないから、ここは僕のお気に入りの場所だった。
　いつでもここにあるのは、半径3mほどの開けた場所と、丸太を半分に切っただけの簡単なベンチ、ただの岩かと思うほど何も主張していない記念碑とそのサイドを固める一台の自販機と一本の桜の木、そして、頭上に限りなく広がる空と、この町の隅から隅までを描いた、360度に広がるアラウンドビュー。
　そして今、僕はこの絵巻物と対峙している。キャスターを吸いながら、厳かな雰囲気にどっぷりと浸っていた。見上げると、星がちらちらと躍っていた。雲があるようで満天の星空と言うわけでもなかったけど、それでも向こうの方にオリオン座が見えた。