訪雪

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 今、この大展望台で主役となっているのは星ではなく、街の光だった。ラーメン屋、コンビニ、大型ショッピングセンターが醸し出す、色鮮やかな光の群れ。明かりに照らされて出てきた点のような人々の影が蠢く。  多くの点の一つ一つが、不規則な動きをしているけど、全体的に見ると規則的な流れがあるように見えてしまうから不思議だ。  とりわけ僕が個人的に名物としているのが、一番賑やかな一帯を二分するように流れる幹線道路天の川だ。テールランプの赤が左サイドを彩り、ヘッドライトの黄色が右サイドを彩る。二色の流れが絵巻物を一層華やかにさせていた。ここに来るのはいつも正月三が日だから、渋滞しているのが確実で、夜景には必ずこの天の川が走っている。  僕は丸太ベンチに腰掛け、キャスターを吸いながらこの景色をただひたすら眺めていた。  少し、落ち着いた。  最近は学校がすっかり受験モードになっちゃって、息苦しくてしょうがなかった。久々のタバコは体中を駆け抜け、優しく介抱してくれた。まだ二年生なのに、と思う反面、少し前までの僕だったらきっと先陣きって受験戦争に乗り込んだだろうな、とも思った。 あぁ。今はこの景色に無心で対面するべきだ。考えても暗い事しか思い浮かばないし。  月明かりに照らされて、コウモリの群れが山の中腹目掛けて飛んで来るのが見えた。夜の静寂の中、唸りをあげる黒流は、規則正しく動くことで喜びを享受していた。  タバコがジジジと鳴いた。  吐き出す吐息は、それが冬独特の白さなのか、タバコの煙なのか、溜め息を溜め過ぎて色がついてしまったのか分からなくなってしまっていた。あまりに気が抜けていたからだろうか。  いきなり人の気配を隣に感じたから、僕は慌ててタバコを丸太ベンチの下に放り込んだ。
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