6人が本棚に入れています
本棚に追加
なんだこれは、と不思議に思う。明るい世界を想像しただけで胸焼けがしてきた。熱いものが喉元まで込み上げる。
胸を押さえながら部屋の入口へと向かい、ドアノブを回す。
てっきり鍵が掛かっているものだと思ったが、ドアノブは抵抗することなく回った。
そのまま押してみると扉は開き、眼前に陽に照らされた廊下が現れる。
軟禁されていると思ったのに、実はそんなことなかった。いつだって外は、わたしを出迎える準備をしていてくれた。
恐る恐る、部屋の外へと足を踏みだす……踏みだ……だし、たい? ……わたしは外に出たい? どうして? 外に一体、なにがある? 不快感を覚えたばかりの光景でも探しに行くのか?
片足を不自然に浮かせたまま悩む。悩む脳とは裏腹に、身体は外に出ることを拒んでいた。
足がゆっくりと部屋に戻ろうとする。逃げようとする。逃げる。
「……」
足下の盆に、ゆっくりと嘔吐した。喉に残る刺激がいやに懐かしい。そして、これで何度目かになる記憶の復活を遂げた。
現実逃避もここまで極めれば、立派な特技へと昇華する。誰からも軽蔑されること必至な特技へと。
口の中に残る不快感もそのままに、ベットに倒れる。その際に顎を打ったが、痛みより眠気のほうが意識をより支配する。閉じた瞼の隙間に入り込んでくる照明も、今は全く気にならなかった。
「あー、眠い」
だから眠る。外に出ることをまた諦めて。
こうしてわたしは、今日も自己を軟禁し続ける。
〈了〉
最初のコメントを投稿しよう!