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尾形 慎治は クリスマス一色に彩られた通りをクリスマスケーキを持ちながら一人歩いていた。
毎年 クリスマスになると あの赤いコートにサンタクロースの帽子をかぶった4歳ぐらいの少女が笑顔で尾形の前に現れるのだ…
が…
今回は 現れる気配を感じなかった。
本当は そんな少女は いないとわかっていた。
毎年クリスマスにしか現れない少女
毎年 同じ格好に…
毎年…同じ背丈…
かれこれ 彼女が尾形の前に現れる様になってから数十年の月日が流れていた。
本当は わかっていた。
あれは 娘に会いたさの 自分がつくり出した幻影…
尾形は 自分に言い聞かせながら 人通りの多いライトアップされた道を一人家路にと急いだ。
肩を落とし歩く尾形の視界に赤い物がちらつく
≪あれは…≫
尾形は 視線を上げ人混みの中に赤いコートを捜す。
≪… ≫
少女は 人混みの中から顔をのぞかせ 尾形に笑顔で手を振るとまた人混みの中に消えた。
≪ユリア…≫
尾形は 人混みを掻き分け 少女の後を追う
≪どいてください…
通してください…≫
「何やってんだよ親父!」
尾形は 野次も気にせずひたすら先を急いだ。
≪すみません…
人混みをわけた視線の先に 赤いコートにサンタクロースの帽子をかぶった少女の後ろ姿があった。
尾形には その少女の後ろ姿が眩しく映った。
≪ユリア…≫
尾形は 少女の前にまわり込み屈みこんだ。
少女はニッコリと微笑む。
《お父さん…》
尾形の目が見開く
≪ユリァ…
こ…と… み…≫
『えっ…!?
ちょっと 家の娘に何をするんですか?』
≪すみません…≫
『あっ…!
少女の母親が叫ぶ
『もしかして…
尾形さん… 』
尾形も 少女の母親を見て理解した。
≪小島君…≫
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