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底無しの闇に包まれた廊下を、ミナは壁に手を押し当てて手探りで進んでいく。
氷のように冷え切った壁は、たびたびミナの手のひらに息を吐かせた。
重く漂う冷気がブランッケット越しにミナの身体を襲い、その小さな肩は小さく震えた。
物音は、居間の方へと近づくにつれて次第に大きくなっていった。
よく耳を澄ますと物音の正体は男の、苦痛に悶えるような呻き声であることが分かり、また何か布を擦り付けるような音も含まれていた。
ところがミナが居間に到達した時、その物音はぴったりと止んだ。
ミナはしばらく様子を見ていたが、先程と打って変わりただ静まり返るばかりだった。
外界の降り積もる雪の音が静寂を支配する。
急に一人ぼっちになったようで少し寂しくなった。
「誰かいるの」
ミナは先程の呻き声に呼び掛けた。
そしてもう一度、優しく囁いた。
「誰かいるんでしょう。
大丈夫、困っているのならミナが助けてあげるから」
澄み切った空気に刺さるように、ミナの声は居間の中へ流れて静かに消えた。
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