彼女の大嫌いなコンサートホール

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ピアノの音が聞こえた。 飛び跳ねるような、それでいて地に落ちるような、心の底からの音が響く。 彼女は、楽譜は無いと言った。 彼女が作った曲だと、教えてくれた。 曲名は“焔”。 放課後の音楽室で、彼女が僕を呼ぶ時に弾いた曲。 僕の名前が焔というわけではないけれど。 足を進めていると、次第にピアノの音が大きくなってきた。 早く、急がなければ。 じきに消防隊がやって来て、僕と彼女を引き離してしまうから。 目の前には、大きな扉。 すぐ上の壁には、大ホールと書かれたプレートが掛かっていた。 着いた。 扉を開けようと伸ばした手を、寸でのところで引っ込める。 把手は金属製なのだ。 僕は少し考えてから、肩で押し開ける事にした。
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