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大ホールは外よりも激しく燃え盛っていた。
扇状に広がる客席も、脇に開いたカーテンも、防音の為の特殊な壁も。
まるでステージを照らすように。
そのステージは、まだそこまで炎に曝されてはいなかった。
僕はステージに走る。
ピアノを弾く女の子は、素人耳にも区切りの良いところで演奏を止めた。
「こんな時ばっかり」
彼女は僕に向き直って、ぽつぽつと呟くように口を開く。
「私を見つけてくれるんだね」
その瞳は、僕を映しては居なかった。
「君はずるいよ」
真っ白なドレスに、申し訳程度の薄い化粧。
それだけで、彼女が僕とは違う種類の人なのだと突き付けられる。
「私ね、君が嫌い」
彼女はそう言って、またピアノを弾きはじめた。
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