彼女の大嫌いなコンサートホール

6/12
前へ
/80ページ
次へ
僕はステージによじ登って、彼女の背後に立つ。 僕の聴いた事のない曲。 「僕は」 「初めてね」 僕が言葉を探そうとしていると、彼女の声が僕の意識を奪い去る。 「私の曲を聴かせたのが君で、私の曲を褒めてくれたのが君なの」 彼女はピアノを弾く手を止めて、でも決して僕の方を見る事無く続けた。 「私をただの女の子として見てくれたのも、君が初めてだったなぁ」 違う。 僕が無知だっただけだ。 きっと彼女が有名なピアニストだと知っていたら、僕は彼女とは線を引いて接していた筈だ。 「凄く嬉しかったの」 普段なら嬉しい言葉が、僕の胸をえぐった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加