短編集

月を浴びる少女

僕の口は決して伝わる事のない音を発して、彼女に何かを伝えようとする。

「その、失礼ですが、僕の様な者とは比べようもない位の方なのではないでしょうか。こんな処で時間を持て余さずに、お屋敷へ帰られた方が……」

彼女は驚きを露にした呆然とした表情で僕を見つめ、そして哀しげに笑った。

「まぁ、こんなドレスを着ていれば分かってしまうか。なら、私の権限を持って、君を従わせるとしよう」

何をするのですか、そう口にしようとした時、少女は握ったままの僕の手をぐいと力強く引き、僕を抱き締めた。

僕よりも背の高い彼女の首筋に顔を押し付けるような格好になり、僕は狼狽える。

「ほら、私の命令だ。私の戯れに付き合ってくれ」

彼女はそんな事を言った。

訳が分からない。

初対面の僕を見ていたと言うし、僕の話を聞きたいと言う。

見たことも無いドレスを着ているので、貴族だろう。

そんな彼女が、一体農家の何を知ろうと言うのか。