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「魔法石は、その持ち主である魔法使いの分身ともいえる」
そう言って、私に真っ白な小さい石を手渡した。
「これは今日、その時、どんな形に変わるかのう。
自分がいったい何者なのかを、その目でしかと確かめるのじゃ」
自分が何者なのかを、確かめる?
わたしは魔法の一つも使えない、貧乏人。
そんな私に、他に何があるというんだろう。
学園長は、魔法で白い石にチェーンをつけて、ネックレスのように私の首にかけてくれた。
「さあ、行きなさい。
まずはいろんなことを、自分の目で見てみることから始めるのじゃ」
キイィ…
部屋の大きな扉が開く。
スウッと風が入り込んで、私の頬をやさしくなでる。
何か不安なことがあると、風は必ず、心にぽっかり空いた穴を埋めるように吹き抜けるんだ。
気がついたときにはもう、学園長の姿はなかった。
部屋を出て、しばらく歩き、塔と塔をつなぐ渡り廊下まで来ると、信じられない光景が待ち受けていた。
どうやらここは、学園の6階らしくて、学園の広大な庭園が一望できる。
「すごいや…」
まるで、一つの街みたいっ
カフェテラスやフラワーガーデン、ステージやプール、
すべてが芸術のようにキラキラと輝いている。
…素敵だなあ。
でも。
学園長の言う「自分の目で見る」っていうのは、これであってるのかなぁ。
何も知らない無知な私が「見た」ところで、
何もできない無能な私が「見た」ところで、
何が大きく変わるとは思えない。
いつもいつも、私は新しい私に生まれ変わりたくて仕方がなかった。
でも、どうやって変わったらいいのか、どんなふうに変わりたいのかさえ分からなかった。
だから、できるだけ、できるだけ何も考えないようにして、生きている自分が心の奥では憎かったんだ。
ギュッと白い魔法石を握ると、驚くほど冷たい。
まるで血が通うその時を、じっと静かに待ちかまえているかのように。
大きな世界に小さな私がひとりだけ取り残されてしまったような、そんな感覚がする。
負けるな、負けるな。
そうやって、自分を元気づけた。
とりあえず、入学式の会場に行こう。
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