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プロローグ
猫鳥の天秤
褪せた朱赤に広がる大地。
低い太陽が長大な影をつくる。
海の近く、潮風をはらんだ空気が森林の苔じみたしっとり重いものに変わるまでには約一日と半分、どこにも覆いのない砂の連続を休みなく踏みしめてゆかねばならない。
単騎ででもあれば、デラアの街までほんの数刻もあれば駆け抜けることができる距離ではある。
が、北廻りには屈強の山賊団が、南廻りはその領有権をめぐって戦火が絶えず、常に治安の乱れたルデニアの金山が控えている。
積み荷を山積した隊商では、安全のためこの炎熱の沙漠を横断せざるを得ないのであった。
大国ダルシアの首都デラアに向かう隊商にとって、最後の難関である。
先ほどから静かな、規則的なラクダの足音だけが響いている。
塩と砂鉄がふんだんに含まれているため磁石もきかぬ地を、ほんのわずかずつ大きくなる砂のつぶだけを頼りに歩く。
イスパナの商人バッソは、一口だけ水を飲んだ。
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