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ふわり、と。
前方にミト王国の入り口、サハウーの集落がらしき光景が見えてきた。
このあたりでラクダに沓を履かせ、さらに半日。
休憩なしに旅は続く。
見えているものはかなたにあるまぼろしであった。
進む方角があやまっていないあかしではある。
が、喜ぶにははやい。
確実にそこにはあるのだが。そして距離を詰めてもいるのだが。
それでも、ときどき鉄の色をした鋭い形の石が砂に混じるようになれば、真実の休息は遠くない。
ラクダの脚に覆いをつけるのはこの礫で痛めぬように、という備えであった。
隊商の歩みは一層遅く、さらに慎重なものとなる。
ときどき薄桃いろの蟹が早足に行き過ぎるのが見える。
この沙漠ごえの最大の危険は実はこの蟹なのだ。
ひとたび足を止めれば、たちまちわらわらと現れ傷口や目、肛門などから肉片を切り盗む。
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