プロローグ 猫鳥の天秤

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「『猫鳥の天秤』…」 猫鳥(フクロウ)とは知恵の象徴である。 決め手にかけ法や人の知恵では裁けない物事を天の采配にゆだねようとする行いである。 ダルシアの言葉で次のように記されていた。 「ダルシウス後宮の奴隷サジ、ここに『猫鳥の天秤』にてこののちの身の在り様を定むるものとする」 一昨日聞いたとおりの光景が目の前に展開されていた。 さればこの仕打ち、王の沙汰というわけか。 このサジという男がなにをしたためか、あるいはしなかったためにこの有り様であるのかはこの石版は教えてくれなかった。 そのとき埋められている男が首を振るった。 まだ生きているのだ。 より近づいてみれば、首筋の大きな傷には蟹がたかりかけている。 この男が首を振るといったんは離れるのだが、砂のうちのからだは縛られてでもいるのかそれ以上はなされるままであった。 砂地の日差しは強く、昼夜の寒暖の差は激しい。 血肉を失うか砂に汗を吸い取られてからだの熱を失うのが先か、いずれにせよこのままでは死ぬのであろう。 男の唇はさして乾いてもいず、仰ぎ見れば天空にハゲワシなどが待っている風情でもない。 おそらくこのような姿になってからさほど間がないのであろう。 商人バッソは男の顔をあらためて見た。 きびしい美しい風貌であった。 ひどく打たれてそこここは腫れ上がり、またきつくその瞼は閉じられていたが、バッソはなぜかこの男の無実を確信した。
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