プロローグ 猫鳥の天秤

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驚いたことに、光っていたものは、ふたつの青ダイヤモンドであった。 それもバッソがこれまで見たこともないような大粒のものである。 左右の色つやは完全に調和しており、途方もなく多くの石たちのなかから厳選された一対であることが伺える。 どれほどの値打ちがあるのか、バッソには見当もつかなかった。 そしてその持ち主の男の肩から下はなんとこの熱砂の下に埋められている。 砂からところどころ見えている、亜麻のいろの長い長い髪にも、黄金でとりどりに細工された大小の髪飾りが輝いている。 この男はダルシア国名物の宦官などではないようだ。その頬やあご、首に浄身者独特のゆるみが見当たらない。 傍らには黒曜石で作られた石板が濃い影をつくっている。 「『猫鳥の天秤』…」 一昨日聞いたとおりの光景が目の前に展開されていた。 猫鳥(フクロウ)とは智恵の神の使い、理性・英知の象徴である。 「猫鳥の天秤」とはダルシア、その源たる古代大ダール帝国由来の裁判方法のひとつ。 いわゆる状況証拠のみで決め手にかけ、法や人の知恵では裁けない物事を、天の采配にゆだねそれに従おうとする行いである。 すなわち死罪、またはこの状態から生還したら無罪。 石板にはダルシアの言葉で次のように刻まれていた。 「ダルシウス後宮の奴隷サジ、ここに『猫鳥の天秤』にてこののちの身の在り様を定むるものとする」 さればこの仕打ち、王の沙汰というわけか。 このサジという男がなにをしたためか、あるいはしなかったためにこの有り様であるのかはこの石板は教えてくれなかった。 そのとき埋められている男が首を振るった。 まだ生きているのだ。
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