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「ねぇ、雪女の話、知ってる?」 突然、彼女がそう、俺に声をかけてきた。 俺は何事かと訝しんだが、別にそれが答えるのを拒否する理由にはならないし、むしろその有名な伝承を知らないと思われるのが癪だった。 「勿論、知ってるさ。猟師小屋で雪を凌いでた親子のところに雪女がやって来て、その雪女は父親は殺したけど息子は見逃したってやつだろ?」 「うん、それで?」 「で、何年か経って息子が娶った女が実は雪女だった……」 「おぉー、よく知ってるじゃん」 「それくらい、みんな知ってるだろ!」 大袈裟に驚いてみせる彼女に少し腹が立ち、俺はそう言い捨てた。 「じゃあ今の状況で雪女が出て来たら、どっちが殺されるかな?」 俺達は今、何処のものか分からない山小屋にいた。外は猛吹雪で、遭難しかけたところにこの山小屋を見つけたのだ。 中には、数日はもつだろう燃料と食料があり、ストーブに火を入れると、やっと落ち着いたのだった。 彼女も気が緩んだのだろう。 そして、この会話が始まったのだ。 「縁起でもねぇな。でももし来たら、お前が殺されるだろ。若い男は俺だしな」 「でも最近の雪女だし、実は女の方が好きだったりして」 「かもな」 俺は彼女の軽口に付き合い、否定もせず、そう言った。 小屋の中にはコーヒーの香りが充満し始めていた。
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