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「はい」
彼女がマグカップを差し出してくる。
湯気の立つそれを受け取ると、真っ黒い液体が中を満たしており、その薫香が俺の鼻を擽(くすぐ)った。
「インスタントしかなかったけど」
彼女はそう言って肩を竦(すく)めると、持っていたマグカップを口に運ぶ。
俺は礼を言う代わりに、受け取ったマグカップを軽く持ち上げると、唇を焼くのも気にせずに口を付けた。口の中に苦味と酸味の混じり合った、溶岩のような液体が流れ込み、喉を焼きながら通り抜けると、胃に収まり身体を暖める。
「生き返るな」
俺は胃の中で熱を発する液体を感じながら溜息を吐くと同時に、そんな言葉を吐き出した。
部屋が暖まり始め、それとコーヒーの温もりが相俟って、俺を眠気が襲い始める。
彼女の視線を感じる。
俺はコーヒーを飲み干した。
いつの間に寝ていたのだろう?
俺は猛烈な寒さに目を覚ました。
辺りは真っ白で、俺の身体の上半分には風が雪を叩き付けてくる。下半分は既に雪に埋もれている。
俺の頭は混乱していた。
最後の記憶は山小屋の中だった。それなのに何故?
そう思いながら身体を起こそうとする。
しかし、寒さで凍えているだけではなく、身体の動きは不自然に制限されていた。
その理由はすぐに分かった。
手足が縛られているのだ。
それと同時に、自分が何故この状況になったのかも悟った。彼女に裏切られたのだ。
俺は薄れていく意識の中で、強く彼女を呪った。
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