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「あのバカ男、今頃あの世で目が覚めたかしら」 彼女がそう馬鹿にした口調で、誰かに声をかける。 「おいおい、そんな事言うなよ。あいつのお陰で俺達は金持ちになれるんだぜ」 そう男の声が答えた。その口調は、彼女に負けず劣らず馬鹿にしたものだった。 この近くで、強盗殺人事件が起こり、警察は犯人の行方を追っていた。 犯人は外で凍り付いている男だ。彼女が彼を唆し、ある金持ちの屋敷に強盗に入らせたのだ。だが彼がしたのはそれだけだった。 その寝室で眠っていた、屋敷の主である老夫婦を殺したのは、彼女と今、一緒にいる男なのだ。そしてこの男は、老夫婦の息子でもあった。 吹雪が止めば山狩りが始まり、犯人の男が凍死しているのが見つかるだろう。 死人に口無し。あの男は強盗殺人犯として処理されるのだ。 そして金持ちの息子は、彼女と共に莫大な遺産を手に入れる。 この吹雪は想定外だったが、天気が回復すれば、何食わぬ顔で屋敷に戻るだけで良かった。 全てはあの男のお陰なのだ。
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