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内履きに履き替え階段を3階まで一気に駆け上がる。
どうせなら階段から落ちかけた女生徒とぶつかったり、曲がり角で女生徒とぶつかったりのイベントが起きれば幸いだけど、現実はそこまで甘くない。
ぶつかりそうになると自発的に避けてくれる生徒達を尻目に、自分の教室に向かった。
「ふぅ、ギリギリセーフか」
教室の扉を開けると同時にHR開始のチャイムが鳴る。
うむ、我ながら完璧なタイムスケジュールだ。
「なに変なドヤ顔してんだよ?」
「よっ、橘」
まるで待っていたかのように(実際に待っていたんだろうが)声がかけられる。
それはオレの"親友"の声。
「相変わらず"主人公"は重役出勤だな」
「うっせぇ、オレだって好きでこんなギリギリ狙ってねぇよ」
「ははっ。んで、今朝の収獲は?」
「……横断歩道を渡っていた小学生の為に車両の整理をした」
「……ほかは?」
「スイカを落としたサラリーマンに電車を降りてまで届けた」
「……ほか」
「以上」
「ボケッ!」
橘の右拳が脳天を直撃する。
視界が大きくぶれて「あがっ!」という自分の声をどこか遠くで聞いていた。
「お前なぁ、それは"主人公"じゃなくて"親切"だ」
「待てって。エスカレーターの下からJKのスカートの……」
「それは"変態"」
再び頭に衝撃。
2度目のげんこつは寸分の違いなく同じポイントを直撃。
「ぐおぉぉぉぉぉ……」
頭を押さえてしゃがみ込むオレを"親友"は呆れて眺めていた。
「お前はもっと"主人公"っぽい事しないと捕まるぞ?」
「オレだってしたいわ! でもよぉ、そんなすげーイベントが簡単に起きるわけがないだろ」
オレだって人助けがしたいわけじゃない。
正直、可愛い女の子とイチャイチャラブラブしたい。
けども、そんなイベントが日常的に起こる訳もなく。
「せめてそれっぽくギリギリで登校かよ。一歩間違えば"不良"だぞ」
「うっさいわ、ボケっ!」
こちとら属性のせいで苦労してるんだよ。
ムリヤリ会話を打ち切る。
そして、頭をかきながら自分の席に向かった。
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