光と私

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「どこ、行ってたの?」 「花を探しにそこら辺」 「この時代、花なんて滅多に咲かないよ」 「うん。咲いてなかった」 彼女は僕と同じ目線になるように座り込んだ。 そして心配そうに僕のことを見て、溜息をついた。 何故そんな事をされるのか分からずにいると、手を差し出される。 立ち上がれということだろう。 だが、僕はその手に触れることを躊躇した。 触れてもいいのだろうか。 もう振り払われないだろうか。 嫌われたんじゃなかったのか? 「光?」 突然名を呼ばれて身体が跳ねる。 彼女はいつの間にか自ら僕の手をとり、立ち上がらせようとしていた。 触れていいんだ。 彼女は許してくれたんだ。 それが分かった僕は嬉しくなって微笑んだ。 「何笑ってるの?昨日倒れたって医者に聞いたよ。寝てなきゃ駄目でしょ?」 「心配してくれるの?」 「今だけね」 「ありがとう。でも、もう大丈夫だよ」 もう大丈夫。 だって、君が此処に居る。 すぐそばに居る。 だからもう寂しくないよ。 「手、繋いでていい?」 「――いいよ」 その後、僕達は一足先に食卓に向かい、帰ってきた二人に怒られたのだった。
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