忠と私

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「あーあ、行っちゃった。折角連れてきたのに」 「これじゃあ好かれようもないな。たかが食事くらいで――」 「うるせえ。お前も怒っていただろう」 「オレは中々この場に現れなかったことに怒っただけだ」 「じゃあ、自分から会いに行けよ」 「――ふん」 視線を逸らした宏。 一方オレは言い合いながらも罪悪感に押しつぶされそうだった。 睨まれた。 その事実に衝撃を受けていた。 何故なら今までにそんな事は一回もなかったのだから。 もう同棲し始めてからもう一カ月が経っている。 だが彼女は一向に心を開いてくれる気配はない。 それが苦しくて仕方がないと光に相談した結果「それって恋でしょ?」と言われ、初めて自分が彼女に好意を抱いている事に気付いたのだった。 何とも情けない話だ。 肝心の彼女はもう自室に籠ってしまっただろうか。 縁側に腰掛けて意味もなくそこら辺を眺めている事はあるのだが、どうにも話しかけにくい。 だから菓子を持って行ってやることが度々あった。 最初は見た目の悪さから怖がられるのではないかと心配したものだ。 しかし彼女はそんな俺を嫌がりはしなかった。 それが嬉しくて何度か菓子を運んでいっている内に宏に「餌付け」と言われるようになってしまったが。
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