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「HQ(司令部)。こちら、乾隊指揮官。NHK放送局周辺から東部に向けて移動中。オーバー」
乾はガスマスクに搭載されている無線機を通して連絡を始めた。
『こちら、司令部。無人偵察機によると、そこから100m先に敵の軍勢が集中している。注意しろ』
無線機から司令部のオペレーターの声が聞こえた。
「了解した。作戦を続行する」
乾は右手の人差し指で無線のスイッチを切った。横には86式装輪装甲車が一緒になって走っている。いざとなれば、20mm機関砲で援護してくれる。
「隊長、敵は一体なんなのでしょうか?」
部隊の中で一番若い若林一等兵が言った。
「俺に聞いたってわかるわけがないだろうよ。だけど、敵が中世ヨーロッパ風の装備をしているのは事実なわけだし」
乾は軽く言った。戦争慣れしているからなのだろうか。緊張感をあまり感じない。
「でも自分、実戦は初めてなので、どんなものなのかわかりません。なにかアドバイスはありませんか?」
若林の手は若干、震えていた。誰でも実戦を経験をするときは恐怖で震えるものだ。
「パニックにならないことと、訓練どおりにやればいいじゃないの。俺だってスターリングラードや北海道で何回も実戦を経験しているし、撃たれたことなんか何回もあるよ。ようするに、慣れだな」
「えっ!?隊長って北海道防衛戦とスターリングラード攻防戦に参加していたのですか!」
若林たちがびっくりした表情で乾の顔を見た。それに乾は若干、照れる。
「ちょっと昔の話だよ。核兵器の無力化作戦もやったし、ロシア軍を撃退したこともあるからなぁ。あの時の冬の寒さは尋常じゃなかったのを覚えているさ」
これに若林たち新人自衛官らは乾のことをテレビやアニメに出てくる超人のように見えていた。
その発想はおかしいが、部隊のほとんどはオタク趣味の持ち主の集団だ。こんな子供みたいな発想もオタクだからこそ出てくるからなのだろう。
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