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「今話してるのは私よ。その私を無視しようなんていい度胸してるじゃない」
「いい?その役立たずの鼓膜をフルに活用して聞きなさい。死にたくなかったら帰りなさい」
女は完全にこちらを振り向いた。ほら、そこの人。とっとと逃げなさい。
「ひ、ひいいい」
立ち上がり、奇声を上げて私たちと反対方向へ掛けていくサラリーマン風の男性。
「チッ」
慌てながら後ろを振り向く女。振り向くと同時に右腕を振り上げ、人差し指でその男性を指差す。でも、そんな思い道理にさせるわけにもいかないので、石を思い切り女性にぶつける。そして、何事も起こらずに視界から消えるサラリーマンの男性。
ふう、ようやくいなくなってくれた。
女はゆっくりとこちらに振り向いた。その目は、なぜか紅い。黒で塗り潰された世界で輝く紅の瞳。まるで、小さな火の玉が二つ浮いているかのよう。
「いいわ。そんなに死にたいのなら。殺してあげる!」
ゆっくりと、彼女の指先が私の頭に狙いを定める。そして、紅い瞳の瞳孔が、一瞬縮小する。
「弾けろ!」
女が言葉を発するよりも早く私は彼女の視界から外れるように横に飛ぶ。
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