プレリュード

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 痛みで眼が覚めた。  腹部にはサッカーボールくらいの大きな穴。立ち上がろうともがいてみるがやけに腕や足が軽い。見れば脇のほうに右腕が吹き飛んでる。おまけに、喉も潰されていて息が出来ないから、なおたちが悪い。  幸い、ここは滅多に人が通らない路地裏の中でもさらに人気のない場所。誰かに見つかってうるさい騒ぎになることはないけど、身体の下を流れてくる血は、正直、気分のいいものではない。 「ああ、めんどくさいなあ。もう!」 仰向けの私の眼に映るは月光。生き物が死に絶えたかの様に静寂しきったこの世界でその月は異様な存在感を放ち、その静寂の闇の世界の支配者として君臨していた。  そこに、どんな罵声を浴びせても、その静寂に飲み込まれてしまう。  別に、これくらいの傷で死にはしないけど、この傷が回復するまで何をしていようか。そんなことを考えていたときだった。  私の横に誰かが立ち、私の喉に触れた。黒いズボンに黒いコートと全身を黒一色で染めたその人は、一見すれば、死神のようにも見えた。だが、その顔は、そのイメージをぶち壊すほど、いたって普通の顔をしていた。
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