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「……そう、ですね」  確かに、そうかもしれない。二人は悲しみのまっただ中にいるし、母さんはただ玄関でオロオロしている。動ける僕らがどうにかしなきゃ──そう思って僕が警察に電話しようとすると、櫻子さんの白い指がひょい、と僕のスマホを奪った。 「あの……櫻子さん?」  手慣れた調子で画面を押して、しばらくしたあと彼女は電話の相手に「私だ」と名乗った。 「少年の母親が経営しているアパートの一室で、入居者の遺体を見つけた。事件性は不明だが、おそらく死後一日以内だ。面倒だから君の方で手配してくれ。住所は──」  ローテーブルの上に散乱した郵便物を、素早く横目で確認しながら、櫻子さんが淀みなくここのアパートの住所を告げる。その口調から、多分電話の相手は在原さんなのだろうと思った。  在原さんは櫻子さんの婚約者で、警察の公安に勤める青年だ。容姿端麗、頭脳明晰、文武両道を地でいくようなすごい人なのに、櫻子さんには何故か頭が上がらない。櫻子さんとは少し年が離れているけれど、子供の頃からつきあいがあるという、所謂幼なじみの関係らしい。 「連絡した。すぐに人が来るだろう」  そう言って僕にスマホを放ってよこすと、彼女は急にしゃがみ込んで、ローテーブルの上に散らかった郵便物や、中身の散乱した鞄に手を伸ばした。 「櫻子さん! 触っちゃ駄目ですよ!」 「何故だ?」 「事件の可能性があります」  慌てて制する僕を無視し、彼女は清美さんの鞄の中を確認した。 「事件だと? ドアにチェーンがかかっていたじゃないか」 「そうですけど……」  癖なのか間隔と向きをご丁寧にも揃えて、櫻子さんが鞄の中身を全てテーブルに出して並べていく。携帯電話、キーホルダーのついた鍵、ポーチ、ポーチ、ポーチ……大きさと種類の違うポーチが三つ、ポケットティッシュとタオル地のハンカチ、ボールペン。 「ふむ」  鞄の中には、どうやらお財布が残っていたらしい。彼女は無造作に開けて、その中にお金が入っていることを確認し、また閉めて、列に加えた。 「……泥棒では、無いんですかね」 「そうだな。だが調べた所、どの部屋も窓は全てしっかり施錠されていたぞ」
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