-序-

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ふと、強い力に引かれて水面に浮かぶように戻った意識。 辺りの翠すら染め上げ、なまめかしい色を反射する赫い液体。 同じくして、自分の肌の色さえ分からない程の、両腕と身体。 呻き声をあげ傷口を押さえ、中には無傷でも泣きじゃくり、怯えた視線を向けるかつての仲間達。 一番上の兄によって呼ばれて来た、親や里人の悲鳴、恐怖に引きつった声。 ……ただ、こなされる救助を虚ろに眺めているしかなかった。 きつく縛られ暴れられないようにされた手足。 涙のせいとも、眼に入った砂のせいとも言えない、霞んで色褪せた世界。 周囲を取り巻き、時に怒声を交え議論する大人達。 殺してしまえ、化け物、と罵ってくる優しかった里人達。 先ずは子の仕返しだと腹を蹴り飛ばされ、地に身体を打ち付ける。 止めて、そんな事をしないでと半狂乱に泣き叫ぶ母の声と、難しい顔をして押し黙り唇をきつく噛む父の姿。 ……ただ、自分の犯してしまったという罪が実感出来なくて怖かった。 一晩睡眠も取らず行われた討論の末、決定した罰。 里の外れ、使えるか分からない程に崩れた廃屋への生涯幽閉。 慣れているはずもない、今まで行った事などない家事の難しさ。 ものを食べたくても食べられない日々の繰り返し。 忌み嫌われ、蔑まれ、殺されかけるという日常。 遥か彼方に消え去った皆と、自分の笑顔。 手の届かなくなった、温かかった家族のぬくもり。 ……ただ、罪を受け入れ背負い、購い続けるしかないと理解したのは……その時だった。
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