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ああ――まただ。
真っ暗な空間の中、俺はまた独りで立ち尽くす。
俺の体から延びる白い影が、不自然さを通り越して、これが俺本体なのかとも思えてくる。
真っすぐ立っているはずなのに、斜めになっているような錯覚さえ覚え、三半規管が不快感を訴える。暗闇のせいで平衡感覚も麻痺してきていた。
その代わり、他の三感――嗅覚と触覚、聴覚が研ぎ澄まされていく。
長い静寂が続く間、俺は自分自身の鼓動を聴いていた。
これから何がやってくるかはわかっているから、以前よりは大分落ち着いたものだ。
…………。
やがて頬にねっとりとしたものが触れた。背後からぐるりと俺の体に巻き付くそれは、錆びた生臭さを漂わせている。
先端がもぞもぞと体を這い、まさぐる。一段と濃く漂う血の臭いと不快さに、寒気と吐き気がした。
「……やめてくれ」
堪えられなくなって口を開くも、喉が締め付けられているように苦しく、声はかすれてほとんど出ない。
すると、耳許で声がした。
……ねえ、どうして抗うの?
そろそろ私のところへ来て頂戴。
目を閉じて黙ったままの俺に、彼女はいつもと同じ言葉を囁く。
……ねえ、圭吾。
ここは、独りじゃ、寂しいわ……。
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