1.一月:休日初日

3/23
363人が本棚に入れています
本棚に追加
/611ページ
 ああ――まただ。  真っ暗な空間の中、俺はまた独りで立ち尽くす。  俺の体から延びる白い影が、不自然さを通り越して、これが俺本体なのかとも思えてくる。  真っすぐ立っているはずなのに、斜めになっているような錯覚さえ覚え、三半規管が不快感を訴える。暗闇のせいで平衡感覚も麻痺してきていた。  その代わり、他の三感――嗅覚と触覚、聴覚が研ぎ澄まされていく。  長い静寂が続く間、俺は自分自身の鼓動を聴いていた。  これから何がやってくるかはわかっているから、以前よりは大分落ち着いたものだ。  …………。  やがて頬にねっとりとしたものが触れた。背後からぐるりと俺の体に巻き付くそれは、錆びた生臭さを漂わせている。  先端がもぞもぞと体を這い、まさぐる。一段と濃く漂う血の臭いと不快さに、寒気と吐き気がした。 「……やめてくれ」  堪えられなくなって口を開くも、喉が締め付けられているように苦しく、声はかすれてほとんど出ない。  すると、耳許で声がした。  ……ねえ、どうして抗うの?  そろそろ私のところへ来て頂戴。  目を閉じて黙ったままの俺に、彼女はいつもと同じ言葉を囁く。  ……ねえ、圭吾。  ここは、独りじゃ、寂しいわ……。
/611ページ

最初のコメントを投稿しよう!