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息を切らす俺の姿を見て、青ざめる父上が視界の端に見えた。
再び弓を構えた道長は更にこうも言った。
「俺がもし、摂政・関白をするはずならば、この矢よ当たれ!」
信じられないことに、先刻と同じく、的が破れるくらいど真ん中を射抜いたのだ。
もうこうなっては、道長をもてなし、引き立てていた興も冷めて気まずくなってしまった。
俺は俺で、道長の顔をまともに見られない。
弓を握っている手までが赤くなっている気がしてならない。
「もう射るには及ばぬ。射るな、射るなっ!」
呆然と立ち尽くす俺に、父上が必死になって制止を掛けている。
対照的なその光景は、すっかり場をシラけさせたようだ。
結果的に、7対3で負けた俺は道長との約束に答えなくてはならなかった。
正直、好きか嫌いかで言うなら「嫌い」だと思う。
限りなく好きに近い、という但し書きがつくけれども。
惹かれているのは認める。
それでもいずれは政敵になる“ライバル”だから。
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