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「それならば、延長なさいませ」
道長があっさり同意したからだ。
一瞬、不満げな表情をしたくせに、作り笑いしやがって。
「なんで、っ…!」
打ちひしがれた気持ちになって視線を逸らした。
「別に。なぁ、もし俺が勝ったら…言ってくれないか?俺の事、どう思ってるか」
そんな俺に問い掛ける声はやけに真剣で、体が震える。
「…あんたなんて嫌いだ、ってのが本音だけど」
「嘘だな。却下」
「なっ、嘘じゃ…!」
ない、と言おうとしたが、遮られる。
痛いほどの集中力にあてられ、そのあとの言葉が出て来なかった。
風を切る、鋭い音。
「この道長の家から天皇や皇后がお立ちになるはずならば、この矢よ当たれ」
直後、道長は同じ当たるにしても的の真ん中を射抜いてみせた。
「えっ?!」
これには俺も胸の高鳴りをごまかせなかった。
もて余すほどのそれに、ひどく動揺する。
震えた手で放った矢は的の近くにすら寄らない。
俺はとんだ的外れの所を射てしまったのだ。
「ちが…好きじゃな‥っ」
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