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寺を出ると、そこにはRZが僕に背を向けて停まっている。
磨き上げられたその車体はこれでもかと云う程に魅力的だ。
「欲しい」
そう、思う。
「いかん、いかん」
昔し、釈迦は第二の矢を受けるなと弟子に説いた。
人は、素晴らしいものに触れると、感動する。
美しい花、美しい風景、世界には素晴らしいものが沢山ある、このRZの様に。
素晴らしいものに触れ、それに感動することを、釈迦は第一の矢であると説いた。
この第一の矢は避けることの出来ない矢である。
しかし、第二の矢は、避けることが出来ると彼は言う。
第二の矢とは、その素晴らしいものを、自分のものにしたいと欲を抱くことだ。
人は、この第二の矢を受けた瞬間、それをどうやって自分のものにし、それを所有しようかと云う無間地獄に堕ちてゆく。
地獄の入り口は、そこにあるのだと彼は説いた。
「そうそう、欲しがるまい、欲しがるまい」
僕はRZのエンジンに火を入れ、残り少ないこいつとの時間を精いっぱいに楽しむことにした。
時計をみる。
時間は後二時間ほど許されていた。
僕は有馬街道を北上し、帰りは山間のルートで帰路に着いた。
風の中の沢山の思い出に浸りながら。
了
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