雪になった男

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まばらにしか降らないこの地方に雪は積もらない。 男は物珍しそうにゆらり舞い落ちる粉雪を見つめていた。 そして掌を広げると、一粒の粉雪を掌で受け止めた。 雪は男の掌に落ちると、一瞬にして融け水滴となった。 やがて男の温もりで水滴は蒸発し、跡形もなく消えてしまった。 すると、男は衰滅していく雪の残像を見つめながら、蒸発して消えた雪と同じほどの大きさの涙を零した。
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