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「お前もぐちゃぐちゃじゃねーか」
ハンカチを差し返すと、もうお互いの泣いてるのか笑ってるのか判らない顔に会場全体から緊迫したムードは無くなった。
『よっしゃ♪ 湿っぽいのはここまでだ! 飲んで食うぞ!』
キャプテンの一声で乾杯をすると、そこには高校時代と変わらない仲間の笑顔があった。
時間はあっという間に過ぎたが、泣いたり笑ったり思い出話に花を咲かせたり…
俺は、人生で初めての楽しい酒を飲んだ。
「ごめん」で始まった宴会も、最後は全員と握手を交わし「ありがとう」で終わった。
自分独りで抱え込み、自分を失うことで全てを忘れようと必死だったこの10年。
仲間を信じてなかったのは俺のほうだった事。
そして俺の勝手な思い込みで、仲間も苦しめていたことを悔やんだ。
失っていた時間…
失っていた仲間…
そして、失っていた自分を取り戻した俺。
足りなかったのは、ほんの少しの勇気だったんだ。
その日、帰宅すると…
玄関で出迎えてくれた母に、10年ぶりの笑顔で「ただいま」と言えた。
―fin―
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