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…・…・…・…・…・…・…
キーン
バットの根元を霞めたボールは、俺の後方にフラフラッと舞い上がった。
懸命にボールを追う。
これさえ捕れば…
「任せろ!
どんな打球でも
捕ってやるから♪」
その自分の言葉を信じて投げたアイツの為にも、必死にボールに食らい付いた…
…・…・…・…・…・…・…
ボールは俺のグローブの中に収まってると思っていた。
しかし、そのビデオの映像は…
前進守備で守っていたレフトが落下点で構え、ボールを掴むその瞬間、ボールだけを追って全力でダッシュする自分がレフトを守る仲間に突っ込んでいくという信じられない光景を映してした。
当然、ボールは転々と転がり、交錯した時の衝撃で俺達二人はうずくまっている。
その間に2塁ランナーはホームに帰り、相手チームは全員ベンチを飛び出し、歓喜の渦が球場全体を支配していた。
俺達に駆け寄るチームメイトと監督・コーチ。
担架を抱え飛び出してくる救護スタッフ。
そして、そのテープに収められた最後の映像は…
膝から崩れ落ちるアイツだった。
目の前が真っ暗になった。
「まさか敗因が…
俺だったなんて…」
あまりのショックに、そのまま動けなくなっていた。
夕方に訪れた両親が、そのテープと俺の状態に気付き、大声で泣いている母に抱きしめられていることにすら反応できないくらい憔悴しきっていた。
それからの俺は、身体は回復して退院はしたが、そこに自分は居なかった。
まるで魂が抜けたかのように無気力で、誰にも心を開けず、ただ部屋に隠っている…
もちろん学校にも通えず留年、そのまま一度も通わず中退した。
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