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廻り巡り
幼い少女がいました。まだ輪郭も円く瞳も丸い子供。
でも何故か世間一般的に言われるようなあどけなさなど微塵にも感じない、寧ろ逆に感情を殺してしまったような表情をしていました。
何を考え何を思っているのか周りの大人達は分からなかったのです。しかしそれは彼女自身もでした。
自分が何を思って動き、何をされて応えているのか分からなかったのです。
氷河の様に固まって永遠の時を止めてしまったかのような瞳。常に平行線を辿る細い眉、動くことはありませんでした。
朱い頬と対照的に蒼く冷たい表情。同世代の子供達とは一段上の振る舞い、態度、言葉遣い。
大人達は彼女を一目置きながらも怖がりました。
それは少女が大人びているだとか、雰囲気が違うからとかそういう理由からではなく、多少はそれを含んだとしても本質はそうではありませんでした。
少女には父が居ません。
彼女の出生当時から父は消息を絶ち行方不明でした。親戚の間には自殺だと言われる程に音信不通でした。
女手一つで少女を育てた母は代々受け継がれる神社の巫女として奉公していました。通称風祝と呼ばれるその位。ある能力を天賦として賜った者に付けられる称号、それが神社の巫女であることの証だったのです。
その能力は本来崇められ神として讃えられる奇跡。人として人為らざる神の力を持つ彼女等を人々は現人神と呼んでいました。しかし今となっては過去の遺物、讃えられるどころか奇異な存在として疎まれ始めました。それが人々から変な目で見られる一番の理由でした。
少女はそれを知りませんでした。
ある日母が原因不明の病で床に臥しました。日に日に増す症状に医者達も手を挙げざるを得なかったのです。不治の病と呼ぶに相応しかった。
少女は黙って母の隣に座り続けました。寡黙にそして涙を流して。
少女は
東風谷 早苗
―私でした
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