第三章 赤い廊下

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 「ではご確認ください」  マリとシェリンは学生課のカウンターにいた。渡されたタブレット端末を取り上げふたりで覗き込む。  上下に並んでふたりのプロフィールが表示されている。学生がアクセスできるデータベースのものだ。「パーティー」の欄の下に「スカウト」の欄がある。そこにはエセン=ディアスとハッセ=タヤクの名前があった。  「スカウト」とは文字通り他のパーティーの者をスカウトすることだ。固定メンバーの「パーティー」とは違い、「スカウト」は契約に基づく共闘関係だ。互いの合意があればいつでも臨時パーティーとして戦うことができる。マリとシェリンはエセンたちの誘いに乗ることに決めたのだった。そのため共闘関係にあるという申請をしに来たというわけだ。エセンとハッセは用事があるらしく一緒には来られなかった。  「こういう臨時パーティーって初めてだね」シェリンが言った。「ソレル先輩に誘われて一時的に参加したことはあったけど、普段から協定を結んだことはないよね」  そうだ。これは私たちにとっての新しい一歩だ。  マリは身が引き締まる思いで画面を見つめ、タブレットを職員に返した。  「あれ、電気ちゃんと猫ちゃんじゃない。なにしてるの」  カウンター奥の扉から出てきた女性職員が馴れ馴れしい声を上げた。  職員の制服に身を包んでいるが、生徒たちと年齢が大して変わらないように見える。彼女はシェリル=ロシュミット。ラヴィエタを卒業後、職員として学校に留まった変わり種――と以前本人が話していた。歳が近いせいか、「近所のお姉さん」のような感覚で生徒たちに話しかけてくる。  もともとは「名前が似ているから」とシェリンを気に入り、マリのこともシェリンを通して知ったようだ。シェリルはふたりをいたく気に入ったようで、それぞれ「電気ちゃん」「猫ちゃん」と呼んでいる。  「……猫?」と、二年前にシェリンが尋ねたことがあった。そのときのシェリルの答えは「なんかね、この、くっ、とした口が猫っぽいから」だった。
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