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勝手口の把手を回しても、もちろん開いている訳はなかった。
何気なく、すぐ左にある窓を引いた。
こちらにも鍵が掛かっており、もちろん開いている訳はなかった。
小さい頃は、背伸びしてこの窓を開けて腕を伸ばし、掛けられた勝手口の鍵を開けていた。
家族なら誰でも知っていた。
掛かっているようで掛かっていない鍵は、澄川家を表しているようだった。
来るものを、鍵の開け方さえ知っていれば、するりと受け入れてしまう、そんな寛容さ。
そんな家に、私はどれだけ救われただろう。
もう一度だけ、閉じられた把手を回し、私は段から降りた。
そのまま家の奥に向かって敷かれた道を進む。
雨樋から落ちる滴が流れ込む水路になった筋を避けて、大きく足を伸ばすと、急に差し込んだ冬の太陽に目を閉じる。
広大な庭が出現した。
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