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『濱田 瞬』と名乗った彼に礼を告げ、濱田家を後にした。
雪だるまの赤いバケツをそっとなおす。
手袋を通しても伝わる寒さに、つい指先を口元に宛がい、はぁっと息をかける。
吐く息は僅かに白い。
「坂の上の澄川さん、か…」
このフレーズを聞いたのは、いつぶりだろう。
子どもの頃は、澄川と名乗るだけで皆が頷き、このフレーズを口にしていた。
“坂の上の澄川さんとこの…”
誇らしいような、恥ずかしいような、複雑な感情。
顔をつんと上げられる、でもその顔は綺麗にしていなければならない、緊張感。
「まだ、おじいちゃんとおばあちゃんは、ここにいるんだね。」
そっと呟き、ふっと頬が緩む。
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