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坂を上りきると、目の前にぐるりと生け垣をはった家が現れる。
その姿に、思わず足を止めた。
どっしりとした安心感が心に流れ込んでくる。
古く、大きな家だった。
しかし、住む人のいない今でも、目立った傷みはなかった。
生け垣もよく手入れされている。
家の壁に彫り込まれた、澄川家の家紋も鮮やかにある。
ゆっくり歩き出し、外門へ向かった。
軋む外門の鍵を押し上げ、一歩、敷地へ足を踏み入れる。
耳に届いたしゃりっという乾いた音に、思わず足を止めた。
足元を見ると、白い無数の欠片が散らばっていた。
「…おばあちゃんが撒いてた、貝殻。」
朝ごはんの浅蜊の味噌汁の後、祖母はその小さな白い貝殻を外門から勝手口までの細い道に散らしていた。
楽しそうなその表情が今も思い出される。
ー「どうして、かいがらを外にまくの?」
ー「こうしておけば、玲ちゃんが歩くと、しゃりしゃりと音が鳴って、おじいちゃんもおばあちゃんも、すぐに分かるんだよ。」
ー「ねこの鈴みたい!」
ー「そうだね。」
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